打楽器小咄~シンバル~

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森の向こう、湖のほとりに、ひとつの人影があった。
それは、ひどく落ち込んだ表情を浮かべ、何かを必死に探す、すだめの姿だった。
どうして、こんなことになったのだろう?
なぜ、あの時、手を離したんだ!
──すだめは、自分の行いをただ悔いていた。
しかし、欲深いすだめは、まだまだ探し続けた。
草むらの陰、木の後ろ…向かいのホーム、路地裏の窓。
そんなところにあるはずもないのに。
気が付くと、すだめは、すっかり泥だらけになり、心までもが薄汚れているようだった。すだめは、ヤケクソになり、手近にあった小石を湖へと投げ込んだ。
すると、湖から女神エルメスが現れた。
「あなたが落としたのは、この金の小石ですか、それとも…あら、あなたはいつぞやのすだれではありませんか。」
のんきな様子のエルメスに、すだめは苛立った。
「おまえだ…おまえのせいだ!おまえがいけないんだ!」
「まだあなたは分かっていないのですか。仕方ありませんね。では、すだれには、これをあげましょう。」
哀しい顔をするでもなく、エルメスはそう言い残すと、スーッと湖の深くへと消えていった。
すだめが貰ったものは、古びて色はくすみ、カビまで生やした丸い二つの円盤──シンバルだった。
まるで、今の薄汚れたすだめにはお似合いである、と言わんばかりに思えた。
「こんな汚くて重いものなんか要るか!」
すだめは、再び不満を口にした。
しかし、気が治まるはずもなく、それを片手に、すだめは湖を後にした。
あれから、どれほどの月日が経っただろうか。
すだめは、しばらく忘れていたはずのシンバルを、あの湖での出来事を、記憶の奥から探り当てるように、引っ張り出してきていた。
そして、試しに叩いてみた。
シャーン!
空に突き抜けるような澄んだ音が、辺り一面に広がった。
その綺麗な音は、すだめの心に驚きと爽快感を与えた。
すっかり魅了されたすだめは、再びシンバルを叩いた。しかし、幾度と叩かぬ内に、それまで、お札よりも重いものを持ったことのなかったすだめの腕が、悲鳴をあげ始めた。ついに、シンバルの重さに耐えられなくなり、すだめの手には、マメまで出来ていた。
もっと叩きたい。
あの爽快感を味わいたい。
──すだめは悔しくなった。
あの湖での出来事以来、未だ薄汚れたままだったシンバル同様、すだめの欲深さも、相変わらずだった。いよいよ執着心に火のついたすだめは、己とシンバルを磨く日々を繰り返した。
やがて、丁寧に手入れされたシンバルは輝きを取り戻し、筋トレが功を奏したすだめは、長い時間シンバルを持つことができるようになった。
そうするとすだめは、今度は曲の勉強に余念がなくなった。チャイコフスキーサン=サーンスシベリウスといった、偉大な作曲家たちが、いかに効果的なシンバルの使い方をしているかを学んだ。
また、叩き方を変えることによって、様々な音色を出せることにも気が付いた。下から持ち上げるように叩いたり、強く叩いてすぐ音を止めたり、こするように叩いたり、ラジバンダリー。そうすることでシンバルは、すだめの要求に応えるように、多彩な音色を見せるようになっていった。
以来、すだめは、シンバルが得意になった。もっと上手くなりたい──変わることのない、すだめの欲が成せる技だった。昔は、自分のこの欲のせいで、大切なものを失った。そう気が付いた時、すだめは短所が長所にもなり得ることを知った。もしかしたら、せっかくの美点を、欠点へ育て上げていたのは、自分だったのかもしれない。その性格を伸ばすも殺すも、それはやはり自分次第なのだ。
すだめは、再びあの湖を訪れていた。その姿に、昔の面影は見当たらなかった。
すだめは、清々しい表情で大きく一息吸い込むと、湖面に向かって叫んだ。
「女神さまー!あの時はごめんなさい!ありがとうー!」
女神エルメスは現れなかったが、それに応えるかのように、太陽に照らされた水面はキラキラと金色に輝いていた。

※この物語はフィクションです。

wrote by すだめ&Gerberatte
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About

すだめ、と申します。 だがっき、打楽器、パーカッションパートです。 メランコリーな雰囲気の曲や絵が好きです。 ディズニーとハリポタオタク。 すきな果物は梨とブルーベリーです。

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